定年後、小説講座で教えながら独り暮らす、澤登志夫。プライド高く生きてきた男が不治の病に侵され、余命を知った時、死をどう迎えるか…。現代をゆさぶる傑作長編。『オール讀物』掲載を単行本化。
文藝編集者として出版社に勤務し、定年を迎えたあとはカルチャースクールで小説を教えていた澤登志男。女性問題で離婚後は独り暮らしを続けているが、腎臓癌に侵され余命いくばくもないことを知る。人生の終幕について準備を始める中、講師として彼を崇拝する若い女・樹里は自分の抱える闇を澤に伝えにきたが…。激情に没入した恋愛、胸をえぐるような痛恨の思いを秘めて皮肉に笑い続けた日々。エネルギーにあふれた時代を過ぎて、独りで暮らし、独りで死ぬという生き方は、テレビで繰り返し言われるような「痛ましく、さびしい」ことなのか。ろくでもない家族でも、いさえすれば、病院の付き添いや事務処理上の頼みごとができて便利なのだろうか。生きているうちから、人様に迷惑をかけないで孤独でない死を迎えるために必死に手を打ち備えることは、残り少ない時間を使ってするようなことだろうか。プライド高く、理性的なひとりの男が、自分らしい「死」の道を選び取るまでの内面が、率直にリアルに描きつくされる。人生の幕引きをどうするか。深い問いかけと衝撃を与えてくれる小池真理子の真骨頂。『沈黙のひと』と並ぶ感動作。
物語は、末期癌の宣告を受けた男の人生を描いた作品。末期癌と死をテーマに描いているだけに、重くなりがちなテーマではあったものの、その死生観がどうも中途半端に描かれていて、読み物としてはそれなりに楽しめたものの、尊厳死に結びつける展開は大きな疑問を感じました。心理描写は良かったものの、個人的にはイマイチです。
【満足度】 ★★★